市指定文化財
仏涅槃図
ぶつねはんず
- 区分
- 有形文化財
- 種別
- 絵画
- 数量
- 1幅
- 所有者
- 個人
- 指定年月日
- 平成26年3月31日
- 指定番号
- 58
- 説明
-
絹本着彩で、丈167.7p、幅172.8pを測る。中央の宝台に頭を左にした釈迦が横たわり、図上右上には、■(りっしんべんに刀)利天から降りる摩耶夫人が描かれる。釈迦の横たわる宝台の周りには、諸菩薩や天部、弟子達、手前(画面下部)には、同様に釈迦の死を悲しむ動物達の姿が多数描かれている。通例の涅槃図の形式では、宝台の周りの沙羅双樹が宝台の後ろに右と左に4本ずつ描かれているが、本図では、2本ずつ配される。そして、全面を大きく空け、諸菩薩・天部、さらには多くの動物の嘆き悲しむ姿が描かれている。中にはトンボ、チョウ、カタツムリ、ムカデなどの小さな生き物が見られるのも興味深いところである。さらに、トラの雌雄が加えられているのが珍しい。トラの手前のヒョウは、日本では古くはトラの牝と思われていたからである。しかし、ヒョウがトラの牝と考えられ描かれるようになったのは、いつ頃からであろうか。桃山時代の襖絵や屏風ではよく見かけられるが、はたしていつ頃から描かれ出したのであろうか。詳しく調べてはいないが、本図などは最も早い例ではないだろうか。このことも注目点の一つにあげられよう。
仏菩薩・天部・弟子達のいわゆる人物描写は、大変精緻で丁寧であるが、悲歎の表情に過度なところがあり、やや時代の若さを感じさせる。また、平安時代から鎌倉時代の早い時期に製作されたものは、宝台の側面が右側を見せているが、本図ではそれが左側を描いている。一般的に宝台の右側面を描いているものの方が古い作例である。左側面を見せるのは、恐らく鎌倉時代の後期頃からではないかと推測している。
なお、絹は41.5p程のものを縦に4枚と両端に2、3pの幅の狭いもの計6枚を繋いで一幅の画面を形成している。大きさは、縦横ほぼ同じで正方形に近く、これも古い作例の一要素で新しくなれば縦横の長方形が多くなる。ただ、それがどの様な時代推移かは明確にされていないが、長方形の作品は、鎌倉時代後期(13世紀末)頃から出てくるのではと推測している。
以上のような点を考慮して、本図の制作年代は、鎌倉時代末から南北朝期(14世紀前半)と仮定しておきたい。
市の指定文化財に充分に値するものである。
(上記は指定時の文章です)